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数々のヒットマンガの編集を手がけた助宗佑美氏が登壇 !「ヒットクリエイトMeeting! Vol.3 ヒットマンガを生み出すメソッド」アフターレポート

2022年11月18日に、ヒットを目指す全てのコンテンツ業界の方々と共に学ぶイベントとして「ヒットクリエイトMeeting! Vol.3」を開催いたしました。第3回となる今回は、講談社で「Kiss」の編集者として、「東京タラレバ娘」や「カカフカカ」など、数々のヒット作品を手がけた助宗佑美さんをお招きし、「ヒットマンガを生み出すメソッド」をテーマに弊社の取締役副社長・東奈々子とプロデューサー・森屋百佳の3人でトークショーを実施いたしました。

講談社に内定をもらったのは、「道が聞きやすそうな子だったから」

:早速ですが、出版社に入った経緯を教えていただけますか?

助宗さん:学生の頃は芸術学部に所属していて、いろんな作品を見たり論じたりしていました。スキを仕事にしたいと思った時に、本が好きだし出版社を受けようという感じで受けたら受かったんです。

:かなり狭き門だと思いますが、なぜ内定を射止めたんだと思いますか?

助宗さん:面接してくださった役員の方に後に聞いたら、「道が聞きやすそうな子だったから」と。クリエイターさんや作家さんとどういう風に付き合っていくかというのが講談社の仕事の重要なポイントになるので「道がききやすそう」に含まれている、話しやすそうだったり、心を開きやすそうだったり、という要素が重要だったのかなと解釈しています。

:最初の配属でコミックに?

助宗さん:マンガが好きだったのでコミック編集したいですと希望を出して、たまたま希望通りコミックの部署に入ることができ、20,30代女性をターゲットにした「Kiss」でマンガを作ることになりました。新卒から10年ほどマンガ作りをした後、一旦結婚出産を経て復帰しました。これからを考えた時に、紙媒体以外のマンガの出し方についても習得しないと、という思いがあり、マンガアプリ事業に手を挙げて異動しました。

:今後は電子が主戦場になっていくと思われたんですね。マンガアプリ「Palcy(パルシィ)」のお仕事はどれくらいされたんですか?

助宗さん:2019年頃に異動して、始めは部員として半年くらいマンガを作りながらアプリをどう運用していくかを学び、半年後に編集長になりました。

Palcy編集長時代は、「マンガ作品の戦略」と「マンガアプリというプロダクトの成長戦略」を両方考えていた

:具体的に編集長時代のお仕事を教えていただけますか?

助宗さん:Palcyの編集長はコンテンツ(マンガ)の連載采配や販売戦略を考える、いわゆるコミックレーベルの編集長の仕事と、マンガアプリというプロダクトの成長戦略を考える仕事の両方をしていました。

:いわゆるプロデューサー的な視点ですよね。

助宗さん:そうです。御社もそうだと思いますが、エンタメのプロダクトはコンテンツが良くないとよいサイクルで回っていかない。なので、立ち上げ初期はコンテンツリーダーがプロダクトリーダーも兼ねたほうが良いという会社の意向でした。大正解だと思いますが実際はすごく大変でした(笑)。

:ユーザーさんからのご意見とプロデューサー視点で数字を見るのとどちらをどのくらい気にされていましたか?

助宗さん:すごく難しいですね。デイリーの数字を見て、短期でこういう作品を入れるとプロダクトがこう伸びるのかと理解しつつ、少女マンガのこれからのトレンドがどうなるのかも考えて掛け合わせる感じでした。短期視点だけ、例えば俺様男子が受けているからとして、「じゃあ新連載20本全部俺様男子にする!」とやってしまうと、俺様男子ブームが終わった時にアプリの需要がなくなってしまいます。

:トレンドも読んで、ということですね。ボルテージの恋愛ドラマアプリも数作品、原作として講談社さんからコミカライズしていただきましたが、コミック業界から見て、スマホ業界はどのように見えますか?

助宗さん:スマホ業界のエンタメはシナリオも重要ですが、どこを切り取るか、それをどういうイラストにするのかもすごく力をいれているなと感じました。ユーザーの「絵」をみるレベルが相対的に高まったと思います。

:なるほど、絵の部分で影響あったんですね。

大ヒット「東京タラレバ娘」は、東村アキコ先生とのおしゃべりの中から「白馬の王子様願望」のテーマに行きついた。

森屋:ここからはヒットを生み出すメソッドについて伺えればと思います。簡単にマンガが世に出るまでのプロセスを教えてください。

助宗さん:先輩から作家さんを引き継ぐこともあるんですが、大抵はまず「あなたが描いてほしい作家さんを口説きにいってください」というオーダーがあります。なので、「この作家さんにマンガを描いてほしい」と会いに行くところからはじまります。ゲーム制作をされている企業さんとかだとここがプロジェクトからスタートするのかもしれないですね。マンガの場合、作家さん自身が持っている価値観をうまく出すことがヒットにつながるということがあるので、私の場合は、「あなたのここが好き」ということでまず作家さんに会いに行って、その方にどんな考えがあるのかお話しを伺った上で、一緒に企画をしていきます。その後、仮でマンガをかく(ネーム)をもらって、作ったネームを編集長に出すことが企画提出ということになります。OKが出れば制作に入ります。

森屋:作家さんからスタートなのですね。作家さんが決まってから世に出るまでどのくらいですか?

助宗さん:マンガを3巻出すとしても、1年~1年半はかかりますので、連載持っている方に、「次はうちで描いてください」と言っても、1年半後とかになるわけです。お声がけして10年してからようやく描いてもらうこともあります。

:そうなると時代の先を見ていく必要がありますね。

森屋:ゲームとは作り方がかなり違うので新鮮です。私もそうですが、視聴者の方もマンガやドラマで「タラレバ娘」を見ていらした方は多いと思います。あのような大ヒット作の企画はどのように生まれたんですか?

助宗さん:東村先生とおしゃべりをしている中で、東村先生が「最近の20、30代女子から相談されることが多い」という話になって。

森屋:おしゃべりの中から生まれるんですね!(笑)

助宗さん:そうなんです。それで、「どんな相談を受けるんですか?」と聞いたら、「この彼氏でいいのか?」「仕事頑張った方がいいのか?」みたいな話なんだと。「それって何でだろう?」と会話を積み重ねていく中で「選択肢が多くて選べない」のかもねという話になって、そこから「いつか白馬の王子様が自分の目の前に現れるというお姫様願望」という根底にあるポイントがみえてきて、これが今の女の子たちの悩みだとなって、「これマンガになるね」という感じで企画ができました。マーケティングして、プロジェクトを組成して、クリエーターを選ぶという順番ではないんですが、結果会話の中でマーケティングの話をしているし、プロジェクトにする話をしていて、これがマンガ作りの多いところかなと思います。

ヒットさせるには「普遍」と「今」を掛け合わせることが大事。

森屋:すごい裏話を聞きました。先ほども作家さんの価値観を出していくという話がありましたが、まさしく今のがそうですね。他にも数々のヒットがありますが、マンガ業界で「ヒット」する作品に共通する要素は何ですか?

助宗さん:どの作品もテーマは違いますが、「普遍」と「今」が掛け合わさっているものだと思います。
「普遍」とは、好きな人に愛されたい、誰かに受け入れられたい、価値を見いだされたい、などいつの時代も変わらない人間の願いです。「今」は物語を構成する5W1Hをマーケティングの視点で今風に変更したものです。 
デバイスとか使っているものの時代の違いだけではなく、例えば今だとSNSが流行って同じランチの写真なのに「いいね」の数が違うなど評価が可視化されて大変だとか、24時間連絡はできるけれどつながりをオフするのが難しいとか、この時代だからこそ生まれるどうしてこうなっちゃうのかなというところまでを「今」として捉えています。

森屋:「普遍」と「今」を意識しながら、ストーリーに落とし込んでいく際に、コツなどあれば教えてください。

助宗さん:「普遍」なところは正直、自分の中でどう見つけられるかという勝負ですが、「今」をどう捉えるかにはいくつかポイントがあるように思っていました。
例えば、多様な価値観を受け入れたいと思っている10代の子たちに対して、少女マンガなどの「男性に守られたい」という欲求と「多様な自分の価値を活かして生きる」という2つのバランスをどうするか。今の女の子の欲求を捕まえつつ理想も提供する。
また、どういう男の子を描くのかはヒットの強い要因になるので、今のかっこいい男子像をどう捉えるかが少女マンガでは重要だなと思います。今受けている男の子を分析して、なぜなのかを自分の中で言語化しています。今だと「役割分担」と「プロフェッショナル」がそろっていることがヒットの要因なのかなと思います。
そういうことを少女マンガにおける「今」として考えていました。

:「いいな」とか「何で」というのを自分の中で消化して、人に伝えられるアウトプットにまで持っていく、ことですね。

森屋:言語化したものを作家さんとも共有することが大事なんだと思いますが、お話しを伺っているとゲーム作りよりも二人三脚で作り上げていくことが多いように思います。作家さんと信頼関係を気づくために心掛けていることはありますか?

信頼関係を築くのはレスポンスの早さと「わかる」の一言。

助宗さん:キャリアとお金事情をどう考えているかを差支えない範囲で聞くことを大切にしています。その方の今までの活躍がキャリア的にもお金的にも成功だと思っているのか、まだまだ足りないと思っているのか。このお仕事でどれだけ成果を出したいのか、それは金銭的成果なのか精神的充足の成果なのかを直接聞いたり、話したりしながら察知しています。それによって、「100万部売りましょう!」なのか、「100万人を感動させましょう!」なのか、100万部売ることは同じですが、目標の立て方が違ってきます。

森屋:なるほど。お金まわりのことってセンシティブですから、今まで聞いたことなかったのですが…私も取り入れてみようと思います。
その他に、作家さんのモチベーションマネージメントなど工夫されていることがあったら教えてください。

助宗さん:クリエイションを爆発させるためには、心理的安全性が重要だと思っています。編集者に何を話しても大丈夫だと感じてもらわないといけないと思うんです。自分だったら嬉しいこと、安心すること、信頼が高まることは何だろうと考えた時に、「既読スルーしない」ということがあります。

森屋:なるほど、大事な配慮ですね。

助宗さん:何を考えているんだろう、いつ返事がくるんだろう、と考えながらお仕事をするのは、集中力のいるクリエイターさんにとってすごいストレスだと思うんです。返事を早くする、できない場合は何時に返信をするか伝える。簡単なことですがとても信頼が高まります!

森屋:やりとりは、基本メールですか?

助宗さん:メールやLINEなどですね。他には、わかると思った時は、必ず「わかる」とちゃんと口に出して伝えます。

森屋:あ~。(大きなうなずき)

助宗さん:「わかる」と伝えると、自分の意見が相手に受け入れられたとわかり、安心して会話が続くんです。言わなくても会話は成立しますが、編集者として「わかる」時には「わかる」というレスポンスをすることで会話だけでなくアイデアにも影響の出るポイントとなります。

修正を入れるときは、作家にまず「なぜそうしたか」を尋ね、そこから埋めていく。

森屋:今度は編集者としてネームを返す時のことを伺いたいのですが、作家さんへの修正や戻しで気をつけていることはありますか?

助宗さん:その場合は「なぜこのシーンでこういう風に言ったの?」など描いた理由を聞きます。「キャラクターはこういう風に言うと思ってこう描いた」という時には、編集者が思っているキャラクター像と作家さんの中のキャラクター像とがずれているかもしれないので、それを埋めていく作業をしていきます。

森屋:聞きながら問答すると時間がかかるかと思いますが、締切とのバランスはどうされていますか?

助宗さん:1つ踏み外してしまうとどんどんずれていって取り返しがつかなくなるので、キャラクターがぶれていると思う時には、そこだけは2時間かかってもぶれを埋めていきます。そのあとなんとか調整していきます。

売れる作品にするため、パッケージにする最後に改めて「コンセプト」を確認する。

:そうやって作家さんと作り上げていった作品を世の中に出す時に、ヒットを生むために気を付けていることはありますか?

助宗さん:単行本などを作るときにはパッケージがとても重要です。タイトル、ロゴ、どのキャラクターのどういう表情で何人を入れるのかなど、半年間頑張ってきたことの”お披露目”のデザインなんだよということで、作家さんともう1回パッケージを作る行為を通し、改めてコンセプトの確認をすることで、その後の2巻3巻の作品も良くなっていきます。
もう1つは、これまでの出版社は雑誌を購入して読んでくれる人の多くが単行本も買ってくれるビジネスモデルでしたが、アプリもそうですが、100万人に知ってもらい、10万人がなんか良さそうと思って見てくれて、1万人が大好きと思ってくれるというビジネスモデルに転換していかないといけないと思っています。まずは出会ってもらい選択肢の中に入らないといけないんですよ、という気持ちの転換もここ5年ほどでやっとできてきた感じです。

:その選択肢に入るためにやっていることはありますか?

助宗さん:ユーザーの一番目に付くところをまずはきちんと作る。その後に、続きを読むかどうかの選択ポイントで切れ目の次を読みたいと思わせるテクニックはこれまで以上に意識しています。

:そうやって売ったものが売れないとなった時に、テコ入れするのか終わらせるのかの判断はどのようにしていますか?

助宗さん:すごく難しいですね。出版社は新作をいっぱい出してその中で売れるものをピックアップするというのがスタイルなので。作家さんに作品の思い入れがあるのは十分理解しているので、納得できない終わり方にならないように物語の美しいたたみ方をできうる限り頭をしぼって提案しますが、結局は「たたんだ方がいい」という判断をします。

作品をマンネリにさせないためには、「翻弄→成長→次の意志」を徐々に上げていく。

:ここで一旦諦めて、次にチャレンジするということですね。逆に大ヒットしているときに、回を重ねてマンネリさせない秘訣があれば教えてください。

助宗さん:ヒット街道に乗った時に、どうやって物語を長続きさせていくのかが次の編集者の仕事になります。翻弄される、主人公たちが成長する、何かを獲得してこうあるべきだったんだという意志を持つ、という物語の基本である繰り返しをパターン変えて、だんだん右肩あがりにリスクとリターンが高まっているかを考えながら作っていきます。相対する敵や障害物などリスクとリターンを大きくするためのアイデアを編集者は出して長続きさせていきます。

SNSアカウントを複数もって、複層的に世の中の空気を感じ取る。

森屋:今度は助宗さんの日々のことについても伺いたいのですが、エンタメにかかわるものはインプットが不可欠だと思いますが、普段どうインプットしていますか?

助宗さん:10万部20万部のヒットであれば、ターゲット層の心を考えることで達成できますが、100万部のヒットを目指そうとなった時に、社会の雰囲気を感じないと難しいのかなと思います。社会の雰囲気をキャッチするというのは、最先端のことを学ぶというより普通にみんなが体験していることを体験して、インプットすることかなと思います。また、友達から勧められたものを見たり、人から勧められたものをしたり、子供が行きたいというところに行くなど主体性のない土日を過ごしています(笑)。自分主体で何かしていると自分の好みに寄ってしまい、それが社会の空気とずれている場合ヒットがでないので。

:自分が楽しむというよりは、何でこれが売れているのか、おススメされたのかという視点で活動されていらっしゃるんですね。

森屋:エゴサーチとかはしていますか?

助宗さん:エゴサーチもしますし、複数のSNSアカウントを持っています。自分が今10代でこの世にいたらこの人をフォローしているかなとか、他の人格だったら?など設定を作って、その人が興味がありそうなものだけをフォローするとおススメで出てくる広告やトピックなどの世界が違うんです。

森屋:ご自身で何かをリサーチされるというよりは、世の中の空気を感じるために見ていらっしゃるんですね。

助宗さん:自分を活かすのはそれを分析するときですね。

誰かの喜びや頑張りの支えになっている意識をもって、自分も楽しんで作品作りを!

:最後に、エンタメ業界に関わる人へメッセージをお願いします。

助宗さん:「東京タラレバ娘」は500万部以上売れたんですが、売られているところは見られないじゃないですか。でも、東京ドームにコンサートに行った時に、5万人の人がコンサートを楽しみにしているのを見て、これで5万人なら500万部って・・・!と思ったんです。自分が作ったマンガ1冊1冊に誰かが読んだという出来事が起きていたのかと思うと、ジーンとしました。誰かの喜びとか、頑張るための支えになっているかもしれないという意識で、自分も楽しく作品を作ることは本当にやりがいがありますよね。一緒に頑張りましょう。

森屋:本日は本当にありがとうございました。

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