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ヒット作を多数手掛けるプロデューサー 新井順子氏が登壇 !「ヒットクリエイトMeeting! Vol.2 ヒットドラマの作り方」アフターレポート

2020年11月25日に、ヒットを目指す全てのコンテンツ業界の方々と共に学ぶイベントとして「ヒットクリエイトMeeting! Vol.2」を開催いたしました。第2回となる今回は、「MIU404」「わたし、定時で帰ります。」「中学聖日記」「アンナチュラル」などの話題作をプロデュースする、新井順子さんをお招きし、「ヒットドラマの作り方」をテーマに弊社の取締役副社長・東奈々子とリードディレクター・小山敬子の3人でトークショーを実施いたしました。

写真左から)ボルテージ取締役副社長 東奈々子
プロデューサー 新井順子さん
ボルテージリードディレクター 小山敬子

:まずは「MIU404」の大ヒット、おめでとうございます。ギャラクシー賞上期も入賞されています。

新井さん(以下敬称略):コロナ禍で撮影仕様もガラッと変わって、本当に最後までやりきれるんだろうかというところが不安でしたが、最後までやれて本当によかったなと。さらに賞までいただけて、ありがたい限りだなと思っております。

プロデューサーは撮影が始まるまで孤独な闘い

小山:早速ですが、新井さんの「ドラマプロデューサー」としてのお仕事内容を簡単に教えてください。放映までの流れは、①企画→②キャスト&スタッフ決め→③脚本作り→④編集チェック→⑤番宣仕込み、という順でお仕事が進むと伺いました。

新井さん:企画が決まる時期は作品によって様々ですが、早いと2年前に決まります。TBSで言うと、火曜・金曜・日曜と枠があって、例えば『MIU404』は金曜日向けに作って出していました。
ドラマはクールによって撮影時期が決まっているので、空いている俳優さんをリサーチしてオファー。そしてスタッフ集め、台本作りと、すべて同時進行です。撮影2ヶ月前にスタッフが集合し、ロケ場所を決めたりや衣装合わせなど準備を進めます。撮影が開始したら、番宣の仕込みです。撮影の合間を縫って、どの番組に誰に出てもらうかを考えます。

小山:「どの枠=どんなターゲットにどんな内容を見せるか、それをどの脚本家が書き、どの役者が演じ、どの監督が撮ればいいか。どんな宣伝をすればヒットするか」をすべて決めていらっしゃるのですね。

新井さん:そうですね。スタッフが集まってくるまで1年以上はプロデューサー1人で黙々と準備しているので、なかなか孤独です。そもそも企画も出したその時に決まるとは限らず、「MIU404」はもとは女性主人公の機動捜査隊の刑事ドラマとして10年前に作った企画でした。時を経て形を変えて決まることもあります。

小山:ドラマに興味を持たれたきっかけも教えていただけますか?

新井さん:『東京ラブストーリー』というドラマが始まったとき、学校に行くと、その話ばっかりになっていて。そこからよくドラマを見るようになりました。自分で物語を考えてみたり、「ドラマリスト」(関係者の名前の記録)を作ったり。それでマニアみたいになっていきました(笑)。

ヒット作は「5年後にも心に残っている作品」

:改めての質問になりますが、ドラマの「ヒット」とは何を差すとお考えですか?

新井さん:テレビはスポンサーさんにお金をいただいて作っているので、視聴率はやっぱり大事です。視聴率が高いとニュースになったり他局でも取り上げられたりして、さらに広がっていきますし。ただ、最近だと配信で見てもらったり、ネットで話題になったり、SNSでトレンド1位を取ったり……視聴率はそうでもなかったけど映画化して大ヒットしたりとか。やっぱり視聴率だけでは測れないものがすごくあるなと感じます。5年後、皆さんが「ああ、あれね」って記憶に残っている作品がヒットかなと思いますね。

:「5年後も残る作品」とは素敵ですね。SNSの反応などは、ヒットを生む中でどういう風に意識されていますか?

新井さん:自分の作品の反応はすごく見ます(笑)。それに別に左右はされないですが、「ああ、こう思うんだ」というところを見ています。「ああ、これが届いているな」とか「あ、これは届いてないな」とか。テレビドラマは放送中にリアルなリアクションが拾えるので楽しいですね。

:それによって、その後の展開を変えたりってことは?

新井さん:たまにあります。「あ、このキャラクターそんなに人気なんだ」みたいなのがあったら、じゃあちょっと出番を増やそうかなとか。

:ボルテージのゲームでも、人気のでたサブキャラをメインキャラクターにしたりということは、よくあります(笑)。逆に、厳しい意見で傷ついたりすることはありますか?

新井さん:あえて、厳しい意見があるサイトにいって傷つくこともあります(笑)。100人いて、100人一緒の意見というものはないので、すべての人に受け入れられるものは作れないんだろうなと思います。批判的な意見は「そういうこと思うんだな」と勉強するようにしています。

:お話を伺っていると「数字を取る」とか「話題になる」とか、作品はもちろん自信を持って作られている分、話題になったり世に届けたいっていう努力というか、いろんな積み重ねをされて、それでヒットにつなげているっていう印象を受けますけれども。

新井さん:私の携帯は、とあるアプリがあって(笑)、何時間かおきにピコン♪って、「今これがリアルタイム1位です」って(通知が来るように)設定しているんですよ。今何が沸いているのかを知る、みたいなこととかはやっていますね。

:市場のニーズとか今こんな時代だからとかっていうように、大仰にはあまり意識しないで、ご自身の肌で感じて、作品の企画に結び付けることが多いということですか?

新井さん:あえて時代を見て狙っていくこともあります。例えば社会問題とかは、寄り添っていかないとどんどん外れて行ってしまう。でも、ラブストーリーはどんな時代でもそんなに変わらないんじゃないかという気がするんです。
事件とか教育とか政治とか、もちろん時代で色々変わっていくんですけど、親子愛とか家族愛とか……普遍的なものってあると思います。また逆にそれを失ってほしくないっていうのもあるから、古きよきものっていうのは、古いと言われようがやりますね。

:ちなみに、恋愛作品は、ご自身はやりたい派でらっしゃるんですか?

新井さん:そうですね、ずっとやりたいわけではないです。そんな、毎回やっているとネタが尽きるじゃないですか(笑)。なので、2~3年に一度でいいかなって思ってます。『MIU404』はあんまりなかったですね(笑)少しだけ志摩さんが桔梗さん?みたいな。本当に微かに入れたんですけど。今の時代には、よりあった方がいいなって思いますね。

:人と人の絆というか、信じられるものというか。

新井さん:はい。やはり愛情というものは恋愛に限らずあった方が、良いなって思います。なので、たぶん来年以降のものは、そういうのが多くなりそうだなって思っています。

原作ものは、作品の軸となるものを変えないように

小山:新井さんが原作ものをドラマ化されるとき、どういう観点で「これがいいな」と選ばれていますか?

新井さん:連続ドラマの場合、全10話とかに膨らむかどうかってことですね。面白いんだけどこれは2時間ドラマ向きだなとか、映画向きだな、みたいなものもあるので。あとは数年後、これをやったときにハマるかどうかです。

小山:10話に膨らみそうかどうかというのは、どういう点を見られているのでしょう。

新井さん:意外に1行とかだったりするんですよね。この1行あればいけるな、とか。あとは、こういうのを足せばいけるんじゃないなかとか。でもそれが(原作者に)NOって言われると、もうこれは成立しない、ということもあります。

:その1行っていうのは、台詞ですか?キャッチですか?

新井さん:ト書きですね。「私は○○な人生を送っていたが、今は▼▼だ」みたいなのが、「ああ、これ3話いける」ってなったり(笑)。あとは、人物設定の何行かが意外とドラマになることはありますね。

小山:では、その原作ものをドラマ化する際に、どういった部分は変えて、どういった部分は変えない、というポリシーはありますでしょうか?

新井さん:変えないことは、キャラクター、その原作を書いた人が何を大事にされているかっていうものですね。例えば『私、定時で帰ります』っていうドラマの主人公が定時で帰る人だったんですけど、それを定時に帰らないキャラクターに変えないということです。そこが変わっちゃうとこのドラマの根本がどこにあるんだとなっちゃうので。ほかは根暗なキャラクターを明るいキャラクターにしないとか。ただ俳優さんが決まった時に、原作のキャラクターに寄せすぎると上手くいかないこともあるんです。そういう時はある程度思い切って役者さんに寄せていくことはあります。結末も基本変えませんが、「リバース」のときのように、原作のその先を描くことはあります。

見たことあるようなシーンはNG。「それ100万回見たよ」

小山:脚本家さんから上がってきたシナリオを、プロデューサーさんも確認されていると思いますが、新井さんはどういう観点でチェックされていますか?

新井さん:「なんかこのシーン見たことあるな」とならないかは気にしますね。近い作品と同じような台詞・設定・展開になっていないかとか。そうなっていると、やっぱり一視聴者として私も面白くないですから。(既視感があるものには)「100万回見たな」ってよく言うんですけど……本当は100万回も見てないんですけど(笑)、やっぱり「なるほど!!」「面白い、これ!」ってなれるものを待ってますね。
また視聴者が何を見たいのかっていうのを客観的に考えます。例えばネタが社会問題だったりすると、書いているほうは掘り下げたくても、見てる人はここにそこまで興味あるんだろうか、いらないのでは? ということもあります。また脚本家さんが何人かいる場合があるので、全体の整合性や前後のバランスも見ます。
あとはキャラクターですね。よく言うんですけど、台詞の上に書いてある名前を隠しても誰が喋っているか分かるか。隠した時に、誰が喋ってるか、男か女かも分からないのはアウトだと思います。(差別化の仕方は)例えばこの人は四文字熟語がすごい出てくるとか、すぐ略すとか、やたら早口だったりとか、そういうところに性格が出せますね。

キャラクターは、役者の魅力を最大限に引き出す

小山:では、キャラクターを魅力的に見せるために留意されていることはありますか?

新井さん:ドラマの場合は役者さんが決まった段階で、その人が一番魅力的な部分を出します。例えば、はにかむのが良さげな人だったら、はにかみ王子にするとか。あと今までやってきた役を見て、似たような役にしないようにします。ほかは原作のキャラクターに囚われすぎず、役者さんの良さを活かして変えていく。実際やってみて、ハマらないなと思ったら積極的に変えていきますね。役者さんもこうしたいとおっしゃることもあるので、一度トライしてみることもあります。

:ボルテージでもキャラクターの二面性などを意識するのですが、そういうのも意識されたりしますか?

新井さん:しますね。特にラブストーリーは。彼女の前でだけ笑うとか、私の前でだけ○○するとか。そういうのはみんな大好きですよね。

:好きですね(笑)。『わたし、定時で帰ります』の仕事中毒の向井理さんのフーディーが(笑)最高でしたね。かっこよすぎました。

新井さん:あれは、衣装合わせをする前日に、衣裳部屋に行って見たら、いわゆる普通のジャケットが用意されていたんですが、これ絶対かっこよくなってしまうんじゃないかと。彼が着たら決まりすぎちゃうと。なので、とりあえず、量販店に行って首回りがふわっとするパーカーを、って買ってきてもらったんです。案の定、衣装合わせでジャケット着てもらったら、めちゃくちゃかっこよくて。そこでパーカーの出番となりました。足元も靴よりスリッパにしよう!と。

:そういう裏話があったんですね(笑)。

ドラマやコミック・小説の引き出しをたくさん持つのは当たり前

小山:プロデューサーさんはあらゆる部署の方と関わっていると思いますが、お仕事上、コミュニケーションで気を付けていらっしゃることはありますか?

新井さん:この人とお仕事するってなった時、その人の作品を見るのは最低限のことですね。100本以上出られていると難しいですけど、近年のもの・代表作は見ます。監督さんも脚本家さんも同じです。脚本家さんは2~3年に一度しか仕事をする機会がないものなのですが、(その人の作品を)見たらメールを送るようにしています。向こうもくれますしね。1話目の放送が終わった後に、LINEやショートメールが返しきれないくらい来るんです。それに1つずつ、こんな夜中に返していいんだろうかと思いながら返信しています(笑)。

小山:相手のお仕事に関心を払い、マメなコミュニケーションをされるようにしているんですね。

新井さん:そうやっていろいろ見てると、会った時に話も盛り上がりますし……あと脚本の打ち合わせでは作品名がたくさん出てくるんですよ。「あの映画の○○ってキャラクターみたいな」「あのドラマの▼話みたいな感じ」とか。見てないと全然話についていけないんです。

:ドラマのほかに、漫画やアニメもお話に出ますか?

新井さん:漫画・アニメ・映画ですね。舞台はたまに。ドラマは海外ドラマが多いです。日本ではできないけど、ああいうのは面白かったなとか、自分たちも何か新しいことに挑戦できないのかなとか、そういうことを考えますね。

企画は数を作ることが大事。100本作って1本通ればいい

小山:ここからは質疑応答です。「プロデューサーの後輩や新卒が来た時によく言うアドバイスなどはありますか?」

新井さん:新人の子がやりがちですが、脚本家さんへのフィードバックで「なんかピンときません、以上」みたいなのはダメですよね。代案もなく感覚で喋っちゃうと、それは視聴者ですから。チョイスするのは脚本家ですけど、「例えば」を言ってくださいと伝えます。すっとんきょうなことでもいいから、「たとえばこんな感じ」「こういうのがいいと思います」とか。「否定することは誰にでもできるから」とはよく言います。それが「この番組でこのシーンを観ました! だからよくないと思います」だったらいいんですけどね。

小山:ボルテージでもライターさんとのコミュニケーションで、悩んでいる社員も多いと思います。

新井さん:やっぱり相手も人間なので、やる気になってもらわないといけないので。凄く褒めてから、どっと駄目出しをするとかは、やった方が良いと思います。

小山:後輩の方から「どうしたら企画が通りますか」「どうしたらヒットさせられますか」といった質問を受けることもありますか?

新井さん:ありますね。「書くしかないよね」って言います。100本書いて1本引っ掛かればいいかなって。「コロナ期間みんな家にいたけどあなたは何本書いたの?」と。私も数を書くようにしています。今日ここへの移動中にも1本書きました。そしたらちょっと乗り過ごしちゃったんですけど(笑)

小山:「プロデューサーにしか担えない役割・味わえない醍醐味を教えてください。」

新井さん:ドラマは役者さん・脚本家・演出家……みんなの人生がかかっているなって思っています。この後の評価にすごく響いてくる。役者さんなんて人気が落ちてCMがなくなって「あいつはもう主役としてアウトだ」なんて言われた日には、もう一生かかっても償えない。ドラマの評判を言われるときって、役者さんが第一に叩かれてしまうし、脚本家さんがたたかれることも最近多いし、演出家が叩かれることもあるし……でも、プロデューサーってあんまり叩かれないんですよね。企画を決めて、脚本にOKだして、現場で芝居を見て、最終的には編集まで入って、GOを出しているのはプロデューサーなんです。だから、やった以上責任を持たないといけないと思いますし、人生をかけてやっています。

諦めずに頑張った先にいつか花が開く

:最後になりますが、コンテンツ業界に携わる皆さんにメッセージをお願いいたします。

新井さん:コンテンツ業界ということは何かを生み出している人たちだと思うんですけど、まあ苦しいですよねって(笑)。作ってるときって本当につらいし、投げ出したいって思うし、つまらない台本に「まあいっか……」って言いそうになったりもするけど、そこを諦めず頑張った先にいい結果があると思います。
人によってはまだやりたい仕事ができていない方もいるかもしれません。ただ何かを始めるには「こういうことやりたいです!」っていう想いしかないので、ペラ1枚でも書き留めていけば、それがいつか花開く時が来ると思います。私も助監督時代は出世が遅かったのですが、好きだっていう気持ちがあればいつかきっと実るので、たくさん好きなものを作っていけばいいのかなと思います。

小山:本日は、大変貴重なお話をお伺いしました。ありがとうございました!

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