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《対談》漫画家ひうらさとる×ボルテージ東奈々子 『ホタルノヒカリ』がオトナ女子に響いた理由。ヒットの裏側にある作者の苦労とは?

恋愛と、仕事と、趣味。20・30代の女性が一番大切にしているのはどれでしょうか?その答えは時代によって変わってきました。そして生み出されるコンテンツのテーマも。今回のゲストは、2000年代に大ヒットを記録した『ホタルノヒカリ』を代表作に持つ漫画家のひうらさとるさん。「オトナ女子」を見つめ続けてきたひうらさんと10年間恋愛ドラマアプリを作り続けてきたボルテージの副会長 東奈々子と企画担当の社員2人がその舞台裏を語ります。

第一回のテーマは、コンテンツ発信者の視点。ひうらさんと東がオトナ女子の市場の見方から、失敗をヒットにつなげる秘策まで、それぞれのアプローチ方法を語りました。

恋愛と趣味、イマドキのオトナ女子事情は?

――ひうらさんは『ホタルノヒカリ』、ボルテージは「恋アプ」と、それぞれ大人の女性向けコンテンツをヒットさせていますが、オトナ女子についてお二人はどんなイメージを持っていますか?

ひうら:20代の頃は、「女子=恋愛好き」だと思っていました。でも自分が大人になるにつれて、それだけじゃないと気づいたんですよ。特にこの10年くらい、女子は恋愛に疲れているように感じます。

:私の20代の頃も「人生は恋愛でお腹いっぱい」くらい恋愛は主食感がありましたが、イマドキの20・30代にとってはデザートくらい、もしくは、面倒くさいけど一応飲んでおかなきゃならないサプリくらいの感じかもしれませんね。

――『ホタルノヒカリ』の主人公の蛍も、恋愛一筋ではないですよね。縁側でビールを飲んでゴロゴロする自分の時間も大事にしているイメージです。

ひうら:そうそう。構想を思いついたのは2003年頃だったんですが、当時は『負け犬の遠吠え』という本がベストセラーになった後で。アラサーの女性たちは恋愛や結婚に必死だと言われていました。彼氏がいないのは恥ずかしいから、見栄を張って相手がいるふりをするくらい。

:彼氏や旦那がいてこそ女性の幸せだ、みたいな。

ひうら:でも自分のすぐ近くで働いていた若手のアシスタントに話を聞くと、それほど恋愛に積極的じゃなかったんです。「合コンしたいな」とは言うんですけど、「じゃあ私がセッティングするよ!」って手伝おうとすると「いやいや……」って引いちゃう。本当に結婚にこだわる人ばかりなのかな?と思って取材を進めた結果、雨宮蛍という主人公が出来上がりました。

:それで『ホタルノヒカリ』が生まれたんですね。当時あのヒロイン像は衝撃的でした。

――2007年には綾瀬はるかさん主演でドラマ化して、「干物女」は流行語になりましたね。ちょうどボルテージさんが「恋アプ」を本格的に始めた頃ですね。

:おかげさまで「恋アプ」は、今年で10周年を迎えました。

ひうら:ボルテージさんの作品はCMでよく拝見しています!ゲームによって絵が描き分けられていて、見るたびに制作者の方々のこだわりを感じます。

:そんな風に言っていただけて恐縮です。当時は、私自身もそうだったように仕事が忙しくストレスがたまっている女性に向けて「寝る前の15分だけ胸キュンしてホッと一息つけるように」と思ってコンテンツを作っていました。仕事で忘れがちな女性モードを取り戻して欲しくて。蛍のようにビール飲んでゴロゴロではないけれど(笑)。

ひうら:最近は干物女の蛍でさえリア充なんですよ。一流企業で働いて、青山に住んで、ちょっと頑張れば彼氏ができるから。2014年に『ホタルノヒカリ』の続編を描くとき、このままじゃ共感してもらえないと思って、今度は主人公をアイドルオタクにしたんです。

:それが『ホタルノヒカリSP』の晴香光なんですね。この作品、本当にタイムリーで、じっくり読ませていただきました。アイドルが生活のすべてという主人公像が、最近の我々のコンテンツのユーザーさんの変化と重なって、時代の移り変わりを見事にとらえていらっしゃるなと。

ひうら:私自身ジャニーズのファンなので、オタクの心理は描きやすかったです。ここ数年でオタク文化はどんどん広がっていますよね。インターネットで同じ趣味の人とつながって、SNSで語り合ったり一緒にイベントに行ったり。

:ボルテージの「恋アプ」も、10年前は一人でこっそり楽しむゲームだったんですよ。「やってることを人には言えない」って感じで。でも今は、SNSで「恋アプ」のファン同士が語り合い、友達になって、リアルなイベントも楽しんでくださっているんです。

ひうら:時代は変わりましたね。今は、彼氏や夫、子どもがいてもいなくても関係なく、自分の趣味、自分が好きだと思うものを大事にするオトナ女子が中心になってきていると感じます。

 

 

ひうらさとる
漫画家
大阪府出身。1984年に『なかよし』でデビュー。主な作品に『ホタルノヒカリ』『メゾンde長屋さん』『ヒゲの妊婦(43)』『女子高生チヨ(64)』など。現在、月刊『Kiss』(講談社)で『ホタルノヒカリBaby』を連載中。一児の母。
東 奈々子
取締役副会長・ファウンダー
Voltage Entertainment USA, Inc. COO
1969年東京生。津田塾大学学芸学部卒業後、広告代理店に入社。2000年パートナー津谷の起業に伴いボルテージへ参画、副社長に。ボルテージ東証一部上場を経て、13年から米国進出のため、3人の子どもと共にサンフランシスコへ。16年3月に帰国。

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