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ロールモデルのいない人生のつくりかた<Vol.3> 「見たことのないものを見てみたい」新たな道を切り拓く2人の共通点

新しい道を選び続ける。だから落ち込まない。

――仕事で落ち込んだ時は、どうやって気持ちを切り替えていますか?

佐藤:本当に簡単な切り替え方法なんですけど、私は甘いものが好きなので机の上に常備してあるチョコレートを食べています(笑)。あとは、子どもが帰宅したら一緒におやつを食べて学校の話を聞いたり。逆に子どものトラブルで落ち込んだときには、仕事をして気持ちを切り替えたり。自分の中でうまく切り替えていければ、そんなに落ち込むことはないんじゃないかな。

:チョコと、お子さんとの会話なのね。そうしてどんどん切り替えて挑戦していく姿が素敵です。その源はどこから来るの?

佐藤:私は「見たことのないものを見てみたい」っていう気持ちが、常に根底にあるんです。そうするとおのずと新しいところに向かっていく気がする。

:それは、私が普段思っている「同じことを繰り返すのはやめよう」っていう意識に近いかも。敢えて自分から環境を変えるようにしているところがあります。例えば…、子どもは3人違う病院で産んでみたり(笑)

佐藤:シリコンバレーに渡って新しい会社を立ち上げたって聞いたときは驚いたけど、それも繰り返しからの脱出だったのね。

:そう。上場して、会社の次のステージに向けて、自分たちも変わらなくてはという問題意識がありました。異国でまたゼロから会社を立ち上げて、オリジナルコンテンツで勝負するという、ある意味無謀な計画でしたが、やってみるべきと。それこそ言語の壁で落ち込むことばかりでしたが、結果として、文化や考え方の違いはあっても日本での経営とベースは同じだと思いました。逆に、今では日米双方のそれぞれの良いところをシナジーさせて会社の成長につなげたいと思い、色々挑戦しています。

↑サンフランシスコスタジオの立ち上げ時

佐藤:日本のコンテンツは、海外でファンが多いですよね。

:アニメ・漫画・キャラクターのパワーはすごいです。子どもの現地校で「ポケモンカードは学校に持ってこないでください」という連絡が来たときはなんだか誇らしかった。娘のアニメ好きの同級生は「トランクに入って一緒に日本に行きた~い!」って言ってました…(笑)我々のタイトルも、ネットで二次創作をしてくれたり、キャラクターのコスプレをしてイベントに来てくれる子がいたりしてかなり盛り上がっています。

佐藤:実はSAMURAIも、次のステージに向けて動き始めたところなんです。今まで進めてきたブランド戦略のトータルプロデュースももちろん続けていきますが、加えて、日本の優れた文化や伝統、コンテンツ、技術、地場産業などを広くグローバルに発信していきたいと考えているんです。今年度は夫の佐藤可士和が文化庁の文化交流使に選ばれて、一か月間海外に滞在したんですよ。

:文化交流使! 一体どんな仕事をするんですか?

佐藤:海外に最短一ヶ月から最長一年ほど滞在して、伝統文化や建築、舞台芸術など、自分の専門領域における日本文化を発信する活動をするんです。過去には、津軽三味線「吉田兄弟」の吉田健一さんや、書道家の武田双雲さんも文化交流使として活動されていました。

:海外の人たちからの日本文化に対するリスペクトって、想像以上ですよね。私も一昨年、パリのジャパンエキスポに行きましたが、アニメ・ゲームなどのコンテンツだけでなく、文化や伝統への関心も高いのにビックリしました。

佐藤:パリでは、日本の文化に対する関心の高さや日本文化へのリスペクトを強く感じました。昨年1月に有田焼400周年プロジェクトの一環で、隈研吾さんや北野武さんとご一緒にパリで有田焼の作品を発表して大好評でした。文化交流使の今年はそれを発展させて、佐藤が有田の窯元8社とコラボレーションした「DISSIMILAR(対比)」という作品をパリで展示・販売しました。

:まさに“見たことのないもの”を見ているのね!

佐藤:寿退社が当たり前だと思っていた20代の自分には想像できなかった展開だけど(笑)、結果的には世の中に新しい気配や空気をつくっていくことに携わりたいという学生時代の夢は叶っていますね。これからも、日本の優れた伝統文化や工芸、技術に、SAMURAIならではのクリエイションのパワーで現代の息吹を吹き込んでいきたいと思います。

:世界に影響を与えているSAMURAIと、自分の道を切り拓いて挑戦し続ける佐藤さん。分野は違いますが、今回は久しぶりにお互いの近況やモチベーションのあり方を語り合うことができ、改めて大変励みになりました。これから先もどんなことがあるかわかりませんが、引き続き同期の仲間として、お互いに自分ならではのロールモデルを歩んで行きましょうね。

<終>

取材・文 華井由利奈

 

 

東 奈々子
取締役副会長・ファウンダー
Voltage Entertainment USA, Inc. COO
1969年東京生。津田塾大学学芸学部卒業後、広告代理店に入社。2000年パートナー津谷の起業に伴いボルテージへ参画、副社長に。ボルテージ東証一部上場を経て、13年から米国進出のため、3人の子どもと共にサンフランシスコへ。16年3月に帰国。
佐藤悦子
「SAMURAI」クリエイティブマネージャー
1969年東京生。早稲田大学教育学部卒業後、広告代理店、外資系化粧品ブランド勤務を経て2001年クリエイティブディレクター佐藤可士和のマネージャーとしてSAMURAIに参加。大学や幼稚園のリニューアル、病院のトータルディレクション、数々の企業のCIやブランディング、商品及び店舗開発などプロジェクトのクリエイティブマネージメント&プロデュースに幅広く携わる。著書に「SAMURAI 佐藤可士和のつくり方 改訂新版」(誠文堂新光社)、「子どもに体験させたい20のこと」(筑摩書房)など。

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