ロールモデルのいない人生のつくりかた<Vol.1> 「寿退社」でキャリアチェンジ。結婚を機に予想外の人生を歩むことに!?
がむしゃらに働いた20代に得たものが自分をつくっている
――なぜ最初の就職先に博報堂を選んだのですか?
佐藤:私は学生時代、世の中に新しい気配や空気をつくっていくことに興味があったんです。例えばホワイトデー。私が小学生の頃はまだ定着していなくて、「ホワイトデーって知ってる? 本命の人にはチョコを返して、本命じゃなかったらマシュマロやキャンディを渡すらしいよ」って友達と話していたんです。それが大学時代にはバレンタインと対になるほどの一大イベントになっていて。いったい誰がそういう新しい流れをつくってるんだろうって考えたとき、マスコミや広告代理店が思い浮かんで、博報堂に入社したいと思いました。
東:昔から、時代に影響を与えたり、コミュニケーションを形作ったりすることに興味があったんだね。それって、今やってるSAMURAIの仕事に通じてる気がする。
佐藤:うん、図らずもね。でも東さんみたいに「一生働き続けます!」っていうほどの意欲はなかった。すごく印象的だったのが同期との会話なんだけど、「いつまで博報堂で働く?」っていう話をしていたとき、私はあまり深く考えずに「30歳の頃には、もう辞めてると思う」って言ったの。そうしたら同期の女の子が「私は30歳どころか、部長や局長になるまで働くつもりだよ!」って。あまりの意識の違いにお互いドン引き(笑)。
東:博報堂の総合職は辞める人が少なかったけど、時代の流れとしては寿退社をする女性が多かったもんね。
佐藤:うん。私は母親が専業主婦だったこともあって、なんとなく「結婚したら辞めるのが普通かな~」ってふんわり考えてたの。
東:私の母親も専業主婦だったけど、どっちかというと技術者だった父親の影響のほうが強かったかな。何かのスペシャリティを持った仕事に就きたいと思ってたから。でも割とミーハーなところもあったから、広い知識を持つゼネラリストにも憧れてて。その両方が叶う博報堂に入社しました。マスコミ業界は他の業界より男女が同等に扱われる環境だと思ってたし。

▲博報堂在席当時の2人
佐藤:でも入社してみたら、男社会だったと。
東:そう。私自身も髪の毛がどんどん短くなって、ボーイッシュなショートカットにパンツスーツで必死に頑張ってた(笑)。テレビ局とか、いろんな相手になめられないように、身振り手振りがどんどん大きくなって…。
佐藤:そうなの?同期のなかでは全然そんなイメージなかったよ!?小柄でショートカットでいつもニコニコしてて、「かわいいな~」ってずっと思ってた。
東:それを言うなら佐藤さんこそ、とても真似できないような女性らしいオーラがあって、髪が長くてスタイルもよくて。退職するときにはハンカチをくれたよね。なんと女らしいと感激しました。
佐藤:よく覚えてるね!でも私、新入社員の頃は掲載誌30冊抱えて、東京駅からクライアントのある新宿駅まで毎日電車で行っていて「人間バイク便」って呼ばれたりしていたよ(笑)
東:そんなことが……(笑)
佐藤:そんなこんなで仕事を辞めたのに、なぜ今日も働いているのか(笑)
東:今では、佐藤可士和さんをたくましくマネジメントする奥様だもんね。
佐藤:東さんも経営者であるご主人様を支えているのでしょう?
東:私は、女の人が無理せずに働ける会社はきっと実現できると思って。もちろん男性もですが。昭和時代の働き方、高度成長期とは違うやり方で業績をあげるとか、女性目線でユーザーさんによりよいものを提供するとか。女性でありながら自然体で仕事をするって、昔は「非」だったけれど、今なら「是」として実績を残すことができる。ボルテージでは、まずは私自身がそれを体現したロールモデルになりたいと思ってます。

取材・文 華井由利奈
第2回に続く
- 東 奈々子
- 取締役副会長・ファウンダー
- Voltage Entertainment USA, Inc. COO
- 1969年東京生。津田塾大学学芸学部卒業後、広告代理店に入社。2000年パートナー津谷の起業に伴いボルテージへ参画、副社長に。ボルテージ東証一部上場を経て、13年から米国進出のため、3人の子どもと共にサンフランシスコへ。16年3月に帰国。
- 佐藤悦子
- 「SAMURAI」クリエイティブマネージャー
- 1969年東京生。早稲田大学教育学部卒業後、広告代理店、外資系化粧品ブランド勤務を経て2001年クリエイティブディレクター佐藤可士和のマネージャーとしてSAMURAIに参加。大学や幼稚園のリニューアル、病院のトータルディレクション、数々の企業のCIやブランディング、商品及び店舗開発などプロジェクトのクリエイティブマネージメント&プロデュースに幅広く携わる。著書に「SAMURAI 佐藤可士和のつくり方 改訂新版」(誠文堂新光社)、「子どもに体験させたい20のこと」(筑摩書房)など。