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【会社改革の500日 vol.1】最初の200日で、社員の意識を変える

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東証一部上場の知られざる副作用

東証一部上場に向けて、無我夢中で走った12年間。それは決して、間違いではなかったと思っている。1999年にボルテージを設立。恋愛ゲームというオリジナルジャンルを立ち上げ、2010年に東証マザーズに上場した。翌年には、東証一部に上場。1年未満での市場変更は、当時史上最短だった。
 
 成功した一番の秘策は、シリーズ化とマニュアル化の徹底だ。恋愛ゲームは仕組み化すれば、どんな若手社員でも爆発的なヒットを生み出せる。上場の審査に向けて、事業成長と利益確保を両立すべく編み出した苦肉の策だった。
 
 けれど、会社のどこかが軋んでいるような気がした。おもしろいものを生み出そうとしているのに、会議は全く盛り上がらない。皆、目を伏せて僕が話し終わるのを待っている。こちらが熱くなればなるほど、社員はシラけていくようだった。
 
 僕は、「社員との間に距離ができてしまった」と直感的に感じた。恐らく上場企業なら業界を問わず共通する悩みだと思うが、創業者はワンマンになりがちだ。500人の社員を前に経営方針を説明する時、会場は静まり返っている。誰一人質問せず、反対意見もない。1対500になってしまったのだ。僕は思い切って社長職を退いた。30代の若手役員にバトンを渡し、経営を任せた。

自分の会社が“巨大な時計”に見えた日

会長になった僕は、副会長になった妻の東奈々子と子供達とともに、サンフランシスコ子会社設立のためアメリカへ渡った。再びゼロからのスタートで苦労もあったけれど、現地社員を採用するところから立ち上げ、エキサイティングな日々を送った。休日には子供とテニスを楽しみリフレッシュした。そして3年後、映画製作に本腰を入れようかと意気込んで帰国したとき、初めて、3年前ボルテージが停滞し始めた理由に気づき、ハッとした。上場によって会社の機能全てが、ガチガチに硬直していたのだ。
 
 おもしろいアイデアがあっても提案できず、会社を変えようと思っても調整が多すぎて断念せざるを得ない。その姿はまるで、巨大な精密時計のようだった。かつて僕が感じた、社員との間に距離ができたから、というのは、とんだ見立て違いだったのだ。

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 ガチガチをぶっ壊そう。帰国して2ヵ月後、僕は社長職への復帰を宣言した。渡米中の3年間にゲーム大手や新たなベンチャー企業が参入し、恋愛ゲーム市場は拡大していたが、同時に競争は激化し、ボルテージの成長率は30パーセントから5パーセントに落ち込んでいた。
 
 まずは約500人いた社員を100人ずつに分け、それぞれのトップに権限の半分を譲渡した。商品の区分も変えた。さらに、モーションタイプのアプリやVR・ARなど、新分野での実験作づくりをスタート。周辺事業から少しずつ新しい風を入れていった。
 
 僕の社長復帰により、自ずと東も会社の立て直しにどっぷり関わることになった。復帰して1ヵ月程経った頃、彼女に明け方4時に突然叩き起こされ、「こんなはずじゃなかった!」と怒鳴られた。彼女も眠れない日々が続いていたのだ。でも、僕はやってみようと思ってしまったのだ。恋愛ゲームに匹敵する新たな波を作り出し、再び大きく成長すること。そして今度はそれを社員の皆と一緒にやっていくことを。この判断が正しいかどうかは結果が出るまでわからないが、僕はこの会社で、もう一度世の中を変えたいと強く思った。

愚痴を組織改革につなげる方法

社長復帰から半年過ぎた。会社の雰囲気は変わってきている。幹部からの新しい提案も増えた。しかし今度は、基幹部門の現場から不満が上がった。ビジネスプランの発表大会で、「自分たちが必死で稼いだ利益を、なぜ新規事業にばかり投資するのか」と紛糾してしまったのだ。僕と東はあわてて30人ずつから直接話しを聞くことにした。一か月で13回にもなった。時には、「自分で考えろ!」と言い返してしまい、険悪な雰囲気にもなったこともあった。でも、こうして社員とやりとりできるようになったのも、一つの収穫だ。
 
 話し合いでは、社員の指摘を白板に書き出し、ともに解決策を考えた。「変える事リスト」を作り、制作体制やプロセスを見直すことにした。僕の経験からは出てこない新しい提案も得た。声を上げれば会社は変わる、自分たちが会社を作っていくのだという意識を抱いてほしい。そして、自ら事業を立ち上げる醍醐味を味わってもらいたい。
 
 2016年7月、社長職復帰と同時に始まった改革は、2017年12月に500日を迎える。この500日で、ボルテージはどこまで変わるだろうか。まずは200日で凝り固まっていた会社をほぐし、社員の意識を変えた。残り300日で仕込みを終え、2018年には数字で結果を叩き出したい。
 
 東証一部上場によって生まれた巨大な精密時計は、もうどこにもない。ただボルテージには、18年の歳月をかけて集めた社員たちがいる。コンテンツづくりに情熱を持ち、ヒットを出したいと願う仲間たちだ。解体された時計のパーツをどう使うのか。どれほどの規模を目指し、どんな技術を加えるのか。新たな時代をつくるアイデアは、社員たちの頭の中にある。
 

取材・文 華井由利奈