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【会社改革の500日 vol.6】社員のマグマに火がついた「社内公募」

「新しいヒット商品」を創りだす

企業は新たなヒット商品を生み出してこそ成長する。新たなヒットは既存のプロセスからは生まれない。生み出し方そのものを工夫しなければならない。これが次の改革テーマだ。

創業期、僕は自分が面白いと思うゲームを作った。斬新なゲームが生まれ、賞をもらい資金3億円が集まった。7年後、社員たちのアイデアから恋愛ゲームが生まれた。ヒットの兆しを感じた僕は会社の全資源を集中させ、クリエイティブとビジネスに磨きをかけた。多くのファンを獲得し、5年後に上場となった。

しかし、その成功体験があまりに強烈で、商品の作り方が固定化してしまった。以来5年間ずっと「カジュアル層向け恋愛ゲーム」という枠の中に囚われてしまった。企画から開発・販売のプロセスすべてがその枠で最適化され、凝り固まっていた。

ポイントは、自由な発想を引き出すこと

ユーザーでもある自分たちが欲しいと思うものを作る。堅苦しく考えるのではなく、やりたい人が、裏庭で、おもちゃを好きに楽しく作るような感じでつくる。かつてのヒット誕生の過程を考えると、整えるべきはそういう環境だ。

僕は、社内公募を行うことにした。縛りは最低限にし、「ストーリー主体のスマホゲームであること」のみ。誰が発案してもよい。1案につき企画書は1枚。ストーリーの要点、ゲーム構成のおもしろさが示してあれば、それでよい。期限は1か月。シリコンバレーの「ハッカソン」みたいな感じだ。

社員が仲間を好きに集められる仕組みもつくった。この指とまれ、略して「指とま」。イントラ上に設置し、自席の画面から簡単に募集告知ができるようにした。参加したい人は目当てのチームをクリックすればよい。堅苦しい審査はなしだ。

しかし、問題が一つ。新企画に没頭するあまり現業をおろそかにする人が増えると、会社はつぶれてしまう。とりあえず、勤務時間のうち10%まではOKとした。あとは自前時間の遣り繰りだ。グーグルのストリートビューもこのような時間から生まれたと聞く。

実は、今年夏にリリースする新ジャンルのアプリ「アニドルカラーズ」も社内公募から生まれたものだ。全社公募に踏み切る前、一つのユニット内での公募から生まれた。自ら生んだ企画だから、企画・開発・プロデュースの担当たちは気合の入り方が違う。ヒットを出せばヒーロー、反面、かなりのプレッシャーも感じているはずだ。

みんなの心にたまったマグマ

公募を始める前、本当に企画が集まるかと僕は心配していた。多くて5案くらいだと思っていた。しかし蓋を開けると、女性向けアプリが30案、男性向けが40案も集まった。ここだけの話、多すぎて顔面が青くなるほどだった。社員の内にこれだけの「創作マグマ」が秘められていたんだと、驚いた。

【会社改革の500日 vol.6】

アイデアは量が質を凌駕する、と僕は信じている。自分はすごい企画を出せると思っている人は多いが、実際に数を出せないようでは通用しない。70案という数字にはかなり勇気づけられた。

目を通すと、どこかで聞いたような企画も多い中、キラリと光るものがいくつかあった。彼・彼女たちが日ごろ楽しんでいるゲームや漫画などヒット作のエッセンスが発展され、組み合わされている。新しきが生まれるプロセスは、多くの既存作にのめり込み、知り尽くした者が、さらにそれらを否定するところから始まる。古い話だが、大島渚は小津安映画を否定し、ルーカス・スピルバーグ映画はスタジオ体制を否定するところから始まった。このレベルまでもっていきたいものだ。

さて、企画を提出したチームには、マネージャー20人と応募者全員に向けて案をプレゼンしてもらった。男性向けのプレゼンでは、カードやボードなどを作ってきたチームもあった。相互投票も実施し、女性向けは4案に絞り込んだ。現在は、さらに厳選したもののモックアップ制作が進行している。ここから先はビジネス面の精度も重要だ。本格的にチームを組成し、外部の目も入れて企画を仕上げていくことになる。

【会社改革の500日 vol.6】

企画を提出した人の多くは、裏方として活躍している部門の社員だった。システム部門やデザイン部門、管理部門など。どの部署も、普段は企画に携わっていない。むしろ企画を受け、形作っている立場だ。ここに、灼熱のマグマがたまっていたのだ。

ボルテージは特殊な会社ではない。新商品が大失敗する可能性もある。恐怖も感じる。ただ僕も社員も、一つの枠に囚われているとマグマがたまってしまうのだ。経営者の仕事は、そんなマグマを見つけて噴火寸前の火山に穴をあけ、正しい方向へと押し流すこと。集まった70案に込められた凄まじい熱意。成功に至るには、一人一人の本気度が試される。本気でやれば会社は変わる。改革は進む。この激しい火山活動が収まった頃には、きっと見たこともないような新大陸が生まれているだろう。

取材・文 華井由利奈