ロールモデルのいない人生のつくりかた<Vol.1>
「寿退社」でキャリアチェンジ。結婚を機に予想外の人生を歩むことに!?


女子心をつかむ恋愛ドラマアプリを生み出し続ける「ボルテージ」と、世界で活躍するクリエイティブディレクター佐藤可士和氏の事務所「SAMURAI」。仕事の領域も組織構成も全く違いますが、実はどちらも創業者夫婦が公私ともにパートナーとなって大きく成長した会社です。ちょっと変わり者の夫を持つ妻たちは、いったいどのように会社組織と自分の人生をつくりあげてきたのでしょうか?
第1回のテーマは、結婚と仕事を天秤にかけたエピソードと、20代を過ごした会社員時代について。25年来の知り合いである2人の本音トークを公開します。

一番大事なものだけ選んで、あとは潔く捨てた

――東さんと佐藤さん、お2人はもともと知り合いだったんですか?

:実は前職の博報堂の同期だったんです。最初の新人研修合宿で、同じチームの女性2人が私たちでした。私はメディアマーケティングシステムの開発担当、佐藤さんは営業担当になってそのあと部署は離れてしまったけど、お互い社内結婚を機に退職。結果として夫を支えながら経営者の立場になったんです。

佐藤:私たちの場合は会社というほど大きな規模じゃなくて、10人くらいの事務所です。佐藤可士和がプロジェクトのコンセプトを構築してトータルでディレクションし、それをスタッフと一緒にカタチにしていきます。私はマネージャーをやっています。

:確か、当時は結婚するので仕事は辞めるって言ってたような……。

佐藤:28歳当時の私にとって一番大切なのはこれからの人生のベースとなる結婚生活を楽しむことでした。でも仕事があまりにも忙しくて両立できないと思い、「仕事はもう辞める!」って宣言して、結婚と同時に退職しました。彼には2人とも働く人生プランが頭の中にあったみたいですが、気持ちを説明したらちゃんと納得してくれました。結局そのあと、知り合いの方が私に新しい仕事を紹介してくださって転職しました。

:寿退社のはずが、キャリアのステップアップにつながった。

佐藤:うん。その経験がいまに至るまで私の人生の教訓になっています。一番大事なものだけ選んで、あとは潔く捨てたら、その次の道は拓けるんだなって思った。


:そうだね、現状を捨てる勇気は大切だと思います。私の場合は、がむしゃらに働いている中で疑問が出てきた。私は不器用だから、結婚したら仕事のルールと家庭のルールが違うとうまくいかないんじゃないかって。実業家の奥さんとか、八百屋の奥さんとか、パートナーと一緒に仕事をする人生を歩みたいと思い始めたんです。 “公私一元”という哲学でいこうと。

佐藤:あれ? 博報堂時代は結婚しないって言ってなかったっけ(笑)?

:うん、採用面接で「東さんは結婚したあと仕事をどうする予定ですか?」って聞かれて、「結婚しませんよ。なんで他人のために生きていかなきゃいけないんですか!」って言い放ったよ(笑)ずっと女子校だったし、若さゆえの勘違いもあって、男女なんて関係なく仕事で成果を出すことがすべてだと思ってた。

佐藤:何がきっかけで心境が変わったの?

:30代までの自分の働く姿は想像できたんだけど、40代以降に会社で活躍する姿がイメージできなかった。それで女性の生き方を模索するために鬼のようにセミナーに通ってロールモデルを探したんだけど、企業人で家庭と仕事を両立している人はどこにもいなくて。それで“公私一元”で、パートナーと同じ方向を向いて仕事も家庭も一緒にやって、自分がロールモデルを作るしかないのかなと思い始めて……。


佐藤:なるほどね。でも考え方が180度変わるってすごい変化だね。

:若い頃は、自分だけの人生で完結してたからね。でも相手がいるなかでどうやって自分の夢を実現していくかっていう考え方は、女性としては受け入れてもいいのかなと。

 

 

東 奈々子
取締役副会長・ファウンダー
Voltage Entertainment USA, Inc. COO
1969年東京生。津田塾大学学芸学部卒業後、広告代理店に入社。2000年パートナー津谷の起業に伴いボルテージへ参画、副社長に。ボルテージ東証一部上場を経て、13年から米国進出のため、3人の子どもと共にサンフランシスコへ。16年3月に帰国。
佐藤悦子
「SAMURAI」クリエイティブマネージャー
1969年東京生。早稲田大学教育学部卒業後、広告代理店、外資系化粧品ブランド勤務を経て2001年クリエイティブディレクター佐藤可士和のマネージャーとしてSAMURAIに参加。大学や幼稚園のリニューアル、病院のトータルディレクション、数々の企業のCIやブランディング、商品及び店舗開発などプロジェクトのクリエイティブマネージメント&プロデュースに幅広く携わる。著書に「SAMURAI 佐藤可士和のつくり方 改訂新版」(誠文堂新光社)、「子どもに体験させたい20のこと」(筑摩書房)など。